漫画家まどの一哉ブログ
「芽むしり仔撃ち」 大江健三郎
「芽むしり仔撃ち」
大江健三郎 作
(新潮文庫)
大戦下、感化院の少年たちは閉鎖された村に収容されるが、疫病の発生と共に取り残され捨てられてしまう。大人のいない村で冒険的に生きる少年たち。著者デビュー2作目の暗黒空想小説。
トロッコで谷を渡るしか往く方法のない閉ざされた村。15人の不良扱いされた少年たちと、圧倒的に無理解の残虐な大人たち。そしてひたひたと迫る疫病。
などなど日常のすぐそばから語るのではなく、現実離れした特殊な設定を用意して書かれた一種のディストピア小説のような作品で、人物の立場も分かりやすく、連続する事件を追って読める。
この初期長編にのちの作者ならではの個性的文体と言うものがあるのかどうかは分からない。捨てられた15少年や疫病の発生などわかりやすい典型的なエンターテイメント設定だが、色調は暗く悲惨で気楽には読めない。そこが読み応えかも。
大人たちから極悪人扱いされている少年たちだが、いたって純粋で幼い児童たちだ。その逆に大人は子供たちをいじめる暴力的な権威者でしかない。不良少年と言えど子供を保護し更生させていかなければならないと、大人が全く考えていないのは、実は伝統的な日本社会の姿ではなかろうか。
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