漫画家まどの一哉ブログ
「自由への道」2(分別ざかり) サルトル
「自由への道」2(分別ざかり)
サルトル 作
(岩波文庫 海老坂武・澤田直 訳)
作者自身をモデルにした長編小説。主人公マチウの行動がいよいよ周辺の人物にも影響して破綻へと向かう。
マチウは妊娠した恋人マルセルの堕胎が喫緊の課題なのに、教え子イヴィックの後ばかり追いかけ、進学試験に失敗したイヴィックが故郷に帰ってしまうことを嘆いている。この有様ではロクな結果にならない。
友人でありながら敵役のダニエルは何故マチウを追い詰めようとするのかわからない。また隠し事をしないはずのマルセルが何故密かにダニエルに会うのか?ダニエルのどこが救いの大天使なのか、今ひとつ納得できない。マチウを気遣って結婚はしたくないが子供は産んでみたいなら、そう言うしかない。言わない挙句の破綻は救いようがない。
このマチウとマルセルの破綻のシーンは凡庸なマチウが全否定されてやりきれない。絶望しかない。まったく辛いものだ。
事態が切迫してくるにつれ全人物の会話シーンが迫真の出来で目が離せなくなってくる。芝居っ気がなく鬼気迫るものがある。見事なものだ。
またゲイであるダニエルのモノローグシーン。カミソリで男性自身に手を加えようとするものだが、自分の手と道具に対する粘りつくような過剰な意識とその繰り返し。これもめったに見られない興奮をそそる表現だ。恐ろしいものだ。
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