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「小林多喜二」21世紀にどう読むか

「小林多喜二」21世紀にどう読むか
ノーマ・フィールド 著
(岩波新書)

「蟹工船」をはじめ近年読み返される小林多喜二。その生涯を丁寧に描いて熱烈で魅力的な人間像に迫る。

多喜二はプロレタリア文学作家として作品を通して労働者の解放を願ったのであり、作品はその運動のためのプロパガンダであるから、この評伝もそこは絶対はずさない。しかしプロレタリア文学で今現在残っているものはテーマは別として小説自体が面白く、作者の才能がみずみずしく溢れているものばかりだ。私もそれがあるから読んでしまう。

また多喜二の魅力は作家としての才能だけではない。熱血漢というかバイタリティあふれる人物で、銀行員としての仕事も創作も共産党運動も全力でやる。会社でも有能で人あたりがよく職場のみんなに慕われ、左翼活動の結果やめざるをえなくなっても、泣いて別れを惜しまれたとは、全く知らなかった事実だ。近代文学のなかでこのパーソナリティはめずらしいのではないか。

真面目で有能な人間だから一途に労働運動に取り組んでいくが、そんな多喜二が獄中にあるうち、プーシキンやバルザック、ディケンズなどに触れて、小説世界の広さと可能性に目を開いていくのが当然といえばそうだが、生きてれば作家としての才能をもっともっと開いていっただろうと思うと惜しい。

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