漫画家まどの一哉ブログ
「川端康成異相短篇集」
「川端康成異相短篇集」
川端康成 作
(中公文庫)
しばしば幻想的な風味を持つ川端康成の作品から「異相」の切り口をもって選び抜いた短編集。
いわゆる幻想文学や怪奇小説というとそれなりの構造があって、例えば日常の中にふとした不思議が紛れ込むとか、非日常の方へずれていくとかが典型だ。ところが川端のそれはそうした書き方とは別の、あまり作為しないで書いたような自然さがある。
死者が登場しているのがあたりまえのようなさりげなさで、さすがに葬式の名人だけあって、生死の境が薄いせいかもしれない。
目に見える不思議さだけではなく、不思議ではないがなにかしら妙な、現実からすこし浮いているような感覚のままで書かれていて、ありえないだろうと思っていても納得してしまう。
傑作中編「死体紹介人」は登場人物が皆人生に投げやりで、身寄りなく死んだ女の葬式から始まり、その妹に別人の遺骨を都合したり、火葬場で知り合ったその別人の身内の女と懇意になったりする。いわば野放図ななりゆきで、それでも気にしない彼・彼女らの会話がぞくぞくするほど面白い。一種虚無的で異様な風味が味わえる。
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