漫画家まどの一哉ブログ
「司馬遷」 武田泰淳
「司馬遷」
武田泰淳 著
(中公文庫)
司馬遷「史記」の多重的な構成を繙き、人物中心の史観を築き上げたその方法に迫る。若き泰淳の第一著作。
この著作が刊行された時武田泰淳は31歳だが、良い意味で筆の若さがあって、元気で活力溢れる文体が心地よい。英雄豪傑の活躍する世界に飛び込んで行く面白さがある。
もちろん「史記」は単なる英雄豪傑譚ではなく、始皇帝・項羽・劉邦など国を治める人物の怒りや悲しみ・迷いもあり、その周辺を彩る人物には文人も多く、敗れ去る者、追われる者も登場。「列伝」の中には世を捨てて隠遁する人物も描かれている。
この司馬遷の多層的な国家観・人物観を作者はあちらからもこちらからも光を当て、研究書というよりはまるで文学を読んでいるようなダイナミックな動きのある作品に仕上がっている。「史記」を読んでいないので「史記」を読むより面白いとは言えないが、心躍る事は間違いない。
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