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漫画家まどの一哉ブログ

   
「今日様」
読書(MIXI過去日記より)
「今日様」
葉山嘉樹短編小説集


女房のおたねといつもの如くケンカした藤蔵は、ついに離婚して単身満州へ渡ることを決意。親父に資金を迫る。もう60を越えた親父に言わせれば、息子の藤蔵は、朝鮮や樺太に一旗揚げに飛び出しては、失敗して親に尻拭いばかりさせているダメ男。遠い夢ばかり追いかけて、毎日の労働に喜びを見いだせないのだ。
ところがこの親父さんは藤蔵の百姓仕事に地下足袋さえ与えないドケチ人間で、藤蔵に与えられたのは、山の上の水漏れたんぼで、肥料代さえもかけられないというありさま。

さて藤蔵夫婦のケンカの仲裁を頼まれた居候の山田は、おたねの実家へと赴くが、おたねの実父は、生えて育ったから立っているという木のような人間で、なにもしない。
妙に頭のいいおたねは「百姓は永久に圧しつけられる生業の中に、湧いてくる蛆虫だ」とか自説をぶちあげ、母親に「また気違いが始まったよ」と嘆かれる。はたして山田は無事おたねを藤蔵のもとへ連れ帰ることができるのか?


面白すぎる人物設定。
葉山嘉樹(1894~1945)といえば、分類的にはプロレタリア小説家で、たしかに代表作「海に生きる人々」などをみても、資本家の搾取を攻撃するインテリ労働者などが出てくるのだが、そういう箇所を読むと実は自分は気持ちが引いてしまう。
そういう警察になんども捕まっている運動家のような、言葉を操る人物ではない、底辺の生活者だけで構成された話がぐっとくる。
室蘭から荒海に乗り出す小さな石炭運搬船の水夫達や、天竜川上流に鉄道施設のためトンネルを掘る坑夫達など、作者の肉体労働体験がリアルで、あたまでっかちにならない。

有名な「セメント樽の中の手紙」は菅野修によって、漫画化されています。(ガロ1991.10月)

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