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漫画家まどの一哉ブログ

   
「ヴェニスに死す」
読書
「ヴェニスに死す」
トオマス・マン
 作

ヴィスコンティの映画を見ずして原作を読んだ。
既に国内で実績を積んだ初老の作家が、休養のためヴェニスを訪れ、そこで出会ったギリシャ彫刻のごとき美少年に心奪われる。作家は少年の美しさの虜となるにしたがって、しだいに大家としてのプライドを失い、日夜少年のあとをつけまわして過ごすのであったが、やがて流行りの伝染病にかかって息を引き取るのであった。

ある年齢以上になると、大人として自分を律する部分を無くしていくところが、さもありなんと思う。理知ある社会人としてのふるまいも、そうそう続けていては疲れる。人間は堕ちてゆくことによって解放を得なければならない。普段から愚行が大切だ。
愚行と言ってはあんまりだが、作中くりかえされる美に対する会話形式のモノローグには真実がある。以下。

芸術家が、精神的なものを追い求めて進む美への道は、必ず人を邪路にみちびくもの。危険で愛すべき道であり、真に邪道であり、罪の道であること。つまり必ずエロスの神が道づれになって道案内をするにきまっている。われわれを高めるものは情熱であり、恋愛ならざるを得ない。これでわれわれ詩人(芸術家)が聡明でも尊厳でもなく、人々を奈落へつれてゆくものであることがわかる。

と、いうわけで、美への道は純粋だが、それゆえにその正体は恋愛とエロスを含み、理知と経験をかなぐりすててこそ得ることができるのということか。これが老齢に達するにしたがって、いよいよ人間に残された情熱として高まりこそすれ、衰えないところが皮肉なものだ。

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