漫画家まどの一哉ブログ
「どこに転がっていくの、林檎ちゃん」 レオ・ペルッツ
「どこに転がっていくの、林檎ちゃん」
レオ・ペルッツ 作
(ちくま文庫)
捕虜時代に受けた侮辱とその屈辱をはらすため、革命さなかのロシアへ潜入したオーストリア陸軍将校青年。宿敵の収容所司令官を探して戦火をくぐり抜け、流浪する果てに得たものは?
主人公ヴィトーリンは、せっかく解放されてロシアから故郷オーストリアへ戻れたというのに、心に誓った復讐のためだけにすぐさまロシアへ舞い戻ろうとする実に酔狂な人間だ。いっしょにオーストリアへ帰国した捕虜仲間が次々と復讐の誓いから離脱し、ヴィトーリン自身も家族との語らいや恋人との逢瀬に日々を費やす中で、密かにロシア行きの手配を実行。そして恋人に計画を打ち明ける間もないままにある夜突然の出発。と、ここまでは周囲の人間との緊張関係があって面白かった。
ところが主人公ヴィトーリンが内戦中のロシアへ渡り、復讐のための冒険が始まると、エンターテイメントの設定が際立ってしまい、話への関心が薄れてしまった。という点は私の極めて個人的な感想だが、ほとんどのエンターテイメントは主人公がどうなろうと私にとって切迫性がなく、読み続ける気が起こらないのだ。
しかし最後にようやく仇敵の元収容所司令官を前にし主人公がとった行動は、人間的な、やや虚しくともこころ安らぐ思いがした。これでよかった。
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