漫画家まどの一哉ブログ
「献灯使」 多和田葉子
読書
「献灯使」多和田葉子 作
(講談社文庫)
鎖国状態となった近未来日本を描くディストピア小説。腺病質な曾孫を懸命に守り育てる頑健な曾祖父。二人に訪れる運命の「献灯使」とは?
なにかしら政府や国家といったものが見えない、ネットも自動車もなく生ぬるく薄められた文明社会で生きてゆく人々。体が弱く感受性が豊かで他に馴染まない主人公の少年にが案外たくましく、他の子供達も普通や一般性といったものと違った、それなりの個性を持っていて魅力的だ。
ディストピア社会を描く事は、多かれ少なかれ寓意や風刺を含むものだが、あからさまなそれがなく、勝手気ままに生きている人々ばかりで、自由や力強さを感じる。
老人ばかりが100歳を超えて元気で、次代を担う子供達はまるでひ弱で未発達なので、確かに衰退へ向かう国家の有り様なのだが、現在われわれを縛っている様々な社会制度が消滅していて、楽になった未来でもある。みんなで同調して頑張ってなければならないことから解放された、これこそ理想社会かもしれない。
併載の短編もやはり寓意的な近未来小説だが、「韋駄天どこまでも」が避難所で知り合った二人の女性の不思議な愛情を描いて愉快。
PR